吉田 統彦(よしだ つねひこ) <プロフィール>
東海高校を経て名古屋大学医学部卒、同大学院修了。前衆議院議員。眼科医。医学博士。愛知医科大学医学部客員教授。昭和大学医学部客員教授。名古屋大学医学部非常勤講師。名古屋医療センター非常勤医師。
数稿にわたり、Public Sectorの雄である
国立チュラロンコン大学医学部付属病院(以下チュラ大)における診療風景を覗いています。
前稿のまとめ
1:旅行者カップルの男性が発症した原因不明の左足腫脹に関するバンコクでの医療体験談。
2:チュラ大で、DVT(深部静脈血栓)の疑いがあり、深刻な問題だと言われた。
3:しかし、チュラ大での超音波検査の予約は驚くべきことに9月しかとれない。(2月中旬現在)
4:お金はかかるが、一刻を争う病気の可能性が高いので、バンコクの高額な私立病院で検査を受けることにした。
5:高額だが快適なPersonal sectorの私立病院で超音波検査を受け、
いよいよチュラ大の血管外科専門医を受診する。予約時間は9時だ!
予約時間は9時でした。
宿泊先の宿のスタッフから、チュラ大に朝の5時に行って、
診察が12時だったという話を聞いたようですが、
今回は初診ではなく予約もあるので安心して病院へ向かいます。
チュラ大到着後2時間経過するとカップルの女性に男性(患者)から電話があり、
まだ診察に呼ばれないと言います。
この日のチュラ大の患者の数は約5000人。
血管外科外来にも、既に約100人の患者が待っており、
しびれを切らした男性が看護師に「オレの順番はまだか!?」(原文ママ)と尋ねると、
看護師は隣の患者を指差し
「こっちの人なんて、7時から待ってるんやっ!」(原文ママ)とキレられたそうです。
件の隣の患者の予約票には、7時と書いてあります。
男性は病院を一端出て、銀行口座開設等の用を済ませ、
午後2時くらいに、チュラ大に戻りました。
血管外科外来前に行くと、患者が一人もいません。
「オレの順番は、来たのか?」(原文ママ)と、
看護師に尋ねると
「あんたは、まだ呼ばれてない。ドクターは1時半に帰った。明日来い!」(原文ママ)と言われ、
男性は激怒します。
よくよく状況を確認すると、同日8時に診療開始予定だった医師が10時に来院し診察開始、
挙句の果てに大量の患者を残し、午後1時半に帰ったそうです。
予約9時の男性の順番はついに来ませんでした。
結論代わりに彼らの感想をまとめます。
0:DVTの疑いありは深刻な問題じゃないのか? こんな状況でよいのか?
1:チュラ大はタイ一番の病院、つまり日本で言えば東大病院に相当するはずなのに、
こんな状況でよいのか?
2月時点での超音波検査予約が9月になるのもさもありなん。
患者が多すぎる。
2:庶民には、私立病院はあまりにも高額なので、患者がチュラ大に集まるのだろう。
患者が多すぎて、予約をとっても診てもらえない現状のようだ。
診察してもらえるまで、いったい何日かかるのであろう?
3:現状ではまさに生死にかかわる状況の際でないと、すぐに診察を受けるのは不可能なようだ。
4:低所得者の命や健康は高所得者のそれに比べて軽いのだろうか?
5:高額な私立病院は患者が少なくすぐに検査が受けられるのとは対照的だ。
6:私立病院の超音波検査の結果、DVTは否定的であったのでもう受診はやめる。
検査技師の対応には一抹の不安が残るが膝も問題がなく、
左足腫脹も自然寛解したので治癒したとする。
7:次回、タイで何かしらの疾患に罹患しても絶対にチュラ大を受診することはないだろう。
高額でも私立病院にした方が良いし、もう少し安価な私立病院もあるそうだ。
私も実際に現地でチュラ大を見学したことがあります。
同院は華やかな中心繁華街でサイアムスクエア等があるBTS(モノレール)サイアム駅から
少し南に下った辺りに位置し、
BTSサラデーン駅の北、超高級ホテルのグランドハイアットやセントレジス等が林立する
ラチャダムリー駅の西に広大な敷地を所有しております。
すぐ南には赤十字社の中に一般観光客も見学できる
如何にもタイらしさを感じる国立毒蛇・感染症研究所(スネークファーム)もあります。
しかし国民の健康と命を守る最後の砦ともいえるPublic Sectorの雄の現状を垣間見ると
30バーツ医療制度の実態を見るようで
日本の国民皆保険の質の高さに改めて驚かされるとともに、
21世紀そして22世紀の医療としてどのような形でそれを維持
そして可能であれば発展させていくのか、
至上の命題であると思いを新たにします。
次稿ではPersonal Sectorのファーストクラス病院の代表である
バンコク・ジェネラル病院の診療風景を覗きながら、
次々項でMedical Tourismにおける日本の状況と可能性を考察し、
まとめていきたいと思います。
元衆議院議員 医師 吉田統彦拝