吉田 統彦(よしだ つねひこ) <プロフィール>
東海高校を経て名古屋大学医学部卒、同大学院修了。前衆議院議員。眼科医。医学博士。愛知医科大学医学部客員教授。昭和大学医学部客員教授。名古屋大学医学部非常勤講師。名古屋医療センター非常勤医師。
ニューデリーのアポロ病院の正式名称は“インドラプラスタ・アポロ・ホスピタル”で、
1996年開設とアポロ病院グループの中では比較的新しく業歴20年弱と短いにもかかわらず、
現在ではインドで最高峰の先進医療を提供し得る、
またインドのMedical Tourismを語る上でも代表的な病院とされています。
ニューデリー駅から地下鉄を利用し約30分の距離にあるJasola Apollo駅から徒歩5分に位置し、
敷地面積は東京ドームの約1.5個分に相当するニューデリー最大の病院です。
インドラプラスタ・アポロ・ホスピタルは医師数約300名、
病床数850床(現在増床中)を誇る急性期の総合病院で、
特に心臓血管外科、腫瘍外科、脳神経外科、整形外科、移植外科等の
外科分野で優秀な成績を誇ります。
国内外に向けた悪性腫瘍や循環器疾患に特化した人間ドック部門も拡充しており、
2010年の医業収入は約90億円、純利益約9億円となっています。
例えば循環器疾患に特化したアドバンスド・ハートチェックの場合は
朝食のサービスまで付いて14000ルピー、日本円で約26000円(1ルピー=約1.85円 2015年10月現在)。
この他、日本の人間ドックにあたる一般のメディカルチェックは
日本円で約6000~8000円前後から受診できるようです。
前稿で述べた様にその成り立ちからもアポロ病院グループは心臓血管外科手術で有名で、
グループ全体で1983年の設立以降約55000症例、
特に直近の5年間で約19000症例の心臓外科手術を施行し、
その成功率は99.6%であったと公表しており、その成功率も優秀ですが、
心臓移植等の症例で他国ではドナーが現れるまで長い待機時間を要する様な症例でも
比較的早期に手術を受けられる可能性もあり、これらは国際的に高い評価を受けております。
実際の受診の際の様子はまず乗用車でインドラプラスタ・アポロ・ホスピタルの敷地内に入る際には、
超一流ホテルや大使館のような厳重なセキュリティーチェックがあり、
入口のゲートは男女別で、病院内は各方面に大きく番号が掲げられており、
識字率8割といわれる国民への配慮とともに、
病院の外壁や院内ロビーの壁には、
健康全般の心構えとか禁煙、減塩、運動、食事の重要性についての具体的な啓発を含む
無数の健康に関する標語がみられ、
予防医療や平素からの健康管理の重要性が示されています。
と同時にこれは同院の内分泌科医長のS.K.ワングヌー医師が
「若者の肥満はまるで流行病のようだ」と述べた様に、
インドの多くの中産階級の家庭で生活様式が変わり、
十代の若者にも肥満が生じている状況の深刻さも示しています。
インドラプラスタ・アポロ・ホスピタルのロビーには、
受付や会計、院内薬局の窓口だけではなく、
コーヒーショップや食堂、複数の売店があり、
多くの患者やその家族、見舞客等の来訪者で盛況となっております。
インド国内の他の一般的な総合病院と比して、
圧倒的に医療機器だけでなくインフラ等の設備面や衛生面が充実しており、
中産階級以上の患者が多くなっています。
今回のテーマでありますMedical Tourismへの対応という点では、
病院内の特定のエリアに外国人専用ラウンジであるプラチラウンジという特別の待合室が複数設けられてあり、
豪華なソファーでゆっくりと寛げるになっています。
ここでは、様々な国からの患者に対応出来るように通訳スタッフも用意されており、
日本語にも対応可能です。
しかしながら後述するタイのバンコク病院や
バムルンラード病院等の古くからMedical Tourismに対応している病院と比較すると、
言語面の対応やサービスという点では、若干劣るという指摘もあります。
日本の病院とは異なり、診療科別の受付はなく、
数人の総合医がアメリカの病院のように各々個室のオフィスを構えていて、
そこで一次診察を行ない、症状に応じた専門医に紹介するシステムとなっています。
一日平均来院患者数は約2000人、うち外国からの患者は100人強で、
タイやシンガポール、マレーシア等の東南アジアでJCIを取得したMedical Tourism対応病院は
Medical Tourismや国内の超富裕層向けの病院というイメージが強いのですが、
アポロ病院グループはあくまで自国インド国民の為の高度先進医療提供に主眼を置いていることも強調しています。
後述するように我が国の医療費はインドの約3~5倍ほど高く、
そもそもMedical Tourismにおける価格面での国際競争力は乏しいのですが、
Medical Tourism推進に当って、
自国民とのバランスを考慮すべき点は重要な課題であるのは間違いありません。
次稿ではまさにそういった問題に直面しているタイのMedical Tourismに関して考察して参ります。
元衆議院議員 医師 吉田統彦拝
吉田先生近影 2015年10月5日