高校校舎の2階廊下の一番端っこから
もう一方の端っこにいた僕に
国語のK先生が
女性とも思えぬ大音声で
オーイ、なかの~っ
と呼びかけてきたあの秋の午後。
あれからもう40回近くも地球は太陽を回り
その間にいろいろなことがあった。
イカロスのように太陽をめざしたこともあったし
イカロスのように翼を焼かれて奈落の底に突き落とされたこともある。
僕はいま
名古屋の千種で英語の先生をやっている。
家に帰ればクッキーというスーパーファットなチワワが待っててくれる。
そんな今の僕が身にまとっっている
ほぼ39年×365日の枚数の時の薄皮を
根気よくその数だけ剥いでいけば
あの日の僕がいる。
君にもやがてこんな風に
受験生時代の今を振り返るときがくるだろう。
K先生がそんな大声で呼んだので
僕は、ハイ!とさらに大きな声でこたえて
廊下の端っこから端っこまで徐々に加速しながら駆けていったのは
K先生にそれだけの魅力があったから
に違いないが
それに加えて
僕を呼んだ声のトーンと
遠目にもうかがえた彼女の相好を崩した表情から
悪い話ではあるまいと直感したからでもある。
プリティ中野